アリの種類を見分ける上で、そのアリがどのような場所に、どのような巣を作っているかという「営巣場所」と「巣の形状」も非常に重要な手がかりとなります。アリの種類によって好む環境や巣の作り方が異なるため、巣を観察することで種類を推測することができるのです。例えば、公園や庭の土の上によく見られる、小さな火山の噴火口のように土が盛り上がった巣穴は、「クロヤマアリ」や「トビイロケアリ」などが作っていることが多いです。彼らは比較的開けた場所の土中に巣を作ります。一方、より大きな体を持つ「クロオオアリ」は、土中だけでなく、朽ち木の中や木の根元、石の下などにも巣を作ります。巣の入り口は比較的大きいのが特徴です。林の中で、枯れ葉や小枝を積み重ねてドーム状の巣を作っているのは、「エゾアカヤマアリ」などのヤマアリ類の特徴的な巣です。このような巣は「アントヒル」とも呼ばれ、内部は複雑な構造になっています。樹上に巣を作るアリもいます。「クサアリ」の仲間は、木の幹や枝に土や植物片を固めて作った巣(カートンネスト)を形成します。木の幹にアリがたくさん登り降りしているのを見かけたら、樹上に巣がある可能性を考えてみましょう。家屋の周辺や内部に巣を作るアリもいます。家屋害虫として知られる「イエヒメアリ」は、壁の隙間、家具の裏、コンセントの中など、暖かく狭い場所ならどこにでも巣を作ります。巣自体が目に見える形で作られることは少なく、発見が難しいのが特徴です。「トビイロケアリ」も、時に家屋の木材部分や壁の断熱材の中などに侵入して巣を作ることがあります。近年問題となっている外来種の「ヒアリ」は、日当たりの良い開けた草地などに、土を盛り上げたドーム状の蟻塚(アリ塚)を作ることが多いとされています。ただし、必ずしも蟻塚があるとは限らず、土中や物の下に巣を作ることもあります。このように、アリの巣の場所や形状は、その種類を特定するための有力な情報源となります。ただし、巣に近づくことは、特に種類が特定できていない場合や、攻撃的な種類(スズメバチなどと誤認しないように注意も必要)の可能性がある場合は危険を伴います。安全な距離から観察するか、アリの出入りを注意深く見るに留め、無理な詮索は避けるようにしましょう。
アリの巣を見れば種類がわかる生態と営巣場所